「場況を見抜く!超実戦立体何切る」と場況の考え方

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8月13日に全日本麻雀協会所属の麻雀プロである平澤元気氏の新著である「場況を見抜く!超実戦立体何切る」が発売されました。今回はこの戦術書のレビューと共に場況について考えていこうと思います。

場況対応は平面セオリーを理解してきた中級者くらいになってくると重要になります。ただ、どのくらい場況を重視するのか、あるいはどの情報を重視するのか、というのは非常に難しい部分です。この辺は上級者同士でも感覚が異なりますし、明確なセオリーとして語られにくい部分です。

この辺りの場況の難しさに切り込んだのが本書です。それまであまり体系化されて語られてこなかった部分が存分に盛り込まれており、場況を考える上で必携の書になると思います。

目次

場況の考え方を文章化

本書では、「シンプルに場況に対応する」ということをテーマに、場況絡みのよくある場面の立体何切るを32テーマ用意して解説しています。

基本的な解説は平澤プロが書かれていますが、何切るの回答者として天鳳の強者の2名、しゅかつ氏(九代目天鳳位)とzeRo氏(十段5回経験)の意見も載せられています。

本書の基本的な流れとしては

1.テーマの牌姿紹介と平澤プロの解説

2.そのテーマについての立体何切るが1問

3.平澤プロの回答・解説、しゅかつ氏・zeRo氏の回答・解説

となっています。

また全体は大きく4章に分かれており章の最後には平面と立体での考え方のまとめが載っています。

1,2,3のステップで理論→実践のような流れを追えるので非常に理解しやすい作りになっています。

本書の画期的な部分は基本的な場況の考え方を細かく丁寧に解説しているところです。

場況を考えると言っても考え方は人それぞれです。

点数状況をどの程度考慮するのかや染めている下家にどの程度絞るのかというのはこれがセオリー!と呼べるものはあまりありません。

というか「下家が染めている」と言ってもどの程度の進行状況なのか、ドラ色なのか、枯れていない役牌は何かなど、状況の組み合わせが多すぎて一つ一つのテーマについて議論するのもなかなか難しいのが現状だと思います。

ただそれでも本書では「こういうときはこの情報は考慮する」「この情報はつまり何を意味しているのか」「こういう場況であれば少なくとも場況がないときよりも押しに寄る」のような考え方の部分が丁寧に書かれています。

一つ一つのケースを考えるのは難しくても、大体こういうときはこういう考え方ができるよね、というようなロジックを説明しているので、しっかりと読んで落とし込めばある程度場況に対応する力はつくと思います。

平面でのセオリーを覚えたけど実戦ではいまいち勝てない、というような脱初心者レベルの人に特におすすめです。

基本的な考え方が多いですが、場況のロジックを理解しているかどうかはそれ以降の上達に大きく関わってくる部分ですのでぜひ読んで考えてみてください。

片側に傾いた天秤に重りを乗せていく作業

※以降の話は個人的な考え方の説明です。

本書の中でも少し言及されていますが、例えば「子のリーチに対して子の自分が(リーチ込で)愚形5200で追っかけリーチをするか」について考えてみます。

追っかけリーチをするか?オリるか?ここであなたは「平面の天秤」を手に入れます。

この天秤は追っかけリーチをするorしないの判断を表したものです。

追っかけリーチをする側に傾いて入ればする、しない側に傾いて入ればしないという判断を下すことになります。

この「平面の天秤」は多くの場合、最初からどちらかに傾いています。

今回の天秤は追っかけリーチをする側に傾いていますね。

これは、平面では愚形5200は追っかけリーチをするのがセオリーだからです。

ここまでは平面の話です。あくまでセオリーの話。じゃあ実際に必ず愚形5200で追っかけリーチするのかというと必ずしもそうでありません。実戦では場況を踏まえた判断が必要になります。ここが本題。

場況を踏まえた判断とは、平面の判断にプラスして場況情報を取り入れ、最終的な判断をするということです。

ということで、最終的な場況を踏まえた判断のために、この平面の天秤に場況の情報を重りとして乗せていきます。

例えば以下のような感じです。

仮にこの天秤のような場況情報があったとしましょう。

今回は「自分の待ちが場に安い」という場況情報の重りが追っかけリーチする側に乗っています。

待ちが場に安い色であるということは、自分のアガリ率が通常よりも高いと言えます。

これにより平面よりも追っかけリーチする側に重みが増します。

ただ、それよりも追っかけリーチしない側に乗っている場況の重りの方が多いですね。

「南2局の12巡目」「リーチ者がラス目」「切る牌が超危険牌」は全て追っかけリーチをしない側に乗る重りです。

通常(平面)よりもアガリ率が低く、放銃した際の順位の変動が大きく、放銃率も高くなるからです。

これら追っかけリーチしない側の場況の考慮によって判断は平面時と逆転しました。

平面セオリー(最初の天秤の傾き)+場況情報(重り分の加重)による最終的な判断(傾き)は追っかけリーチしない側に傾くことになります。

もう一つだけ同様の例を出します。

今度は打点を低めにして「子のリーチに対して子の自分が(リーチ込で)愚形2600で追っかけリーチをするか」について考えてみましょう。

今回手に入れる平面の天秤はこのような感じです。

先ほどの愚形5200のときよりも傾きが緩やかですね。一応追っかけリーチする側に傾いてはいますが、少しの重りを乗せただけで追っかけリーチしない側に傾きそうです。

これも平面セオリーからこういった天秤になります。どちらに傾いているのかも重要ではありますが、今回は愚形5200よりも傾きが緩やかであるということが重要です。打点が先ほどよりも低いので、愚形5200よりは強気に追っかけにくくなります。

このように平面の天秤の傾きが緩やかであるということはすなわち場況情報の重りによって最終的な判断が変わりやすいということです。

では試しに今回も天秤に重りを乗せてみましょう。

さて今回は「待ちが相手の現物かつ自分の筋」「宣言牌は安牌」「東2局の6巡目」という情報が追っかけリーチする側に乗っています。

オリ打ちの狙えそうな良い待ちであること、少なくとも宣言牌では放銃しないこと、まだ東場であるので点数状況的には平面のセオリーが適用しやすいこと、という理由で追っかけリーチする側に情報を乗せています。

逆に追っかけリーチしない側はどうなっているでしょうか。

「リーチ棒を出すと着順が下がる」「待ちがあと3枚」という情報が乗っています。

リーチ棒を出した瞬間に着順が下がってしまうと横移動や被ツモ時にそのまま着順ダウンのリスクを負うことになります。また、待ちが通常より少ないことも勿論リーチしにくい要因です。

ちなみに今回は「リーチ棒を出すと着順が下がる」という情報は「東2局の6巡目」という情報のせいで多少評価が小さくなります。

リーチ棒で着順が下がるのはマイナスではありますが、東2局ではまだその程度の点差の着順変動は最終期待着順に大きな影響を与えられないと予想できるからです。

これが南3局やオーラスだとリーチ棒で着順が下がるのは非常に大きな重りになり得ます。

これらの情報を重りとして乗せた結果として、最終的には追っかけリーチする側に傾いています。

平面の天秤での微妙な追っかけリーチ有利に重みが加わり、それでも乗せられた重りが相殺しあって最終的に天秤はあまり動かなかった、という感じです。

以上の例のように場況情報を加味して判断すると、平面の天秤とは傾きが変わるということがあります。

こういった部分がよく麻雀の上達において「基本セオリーだけでは勝てない」、「量産型デジタルを脱する」、「上級者の思考」というような文脈で語られる際の肝になっていたりします。

正確な天秤、正確な重り

場況に応じた正しい判断ができるようになるために必要なこと何でしょうか。

天秤の最終的な傾きを正しくするために必要なのは以下の要素です。

1.最初の「平面の天秤」自体が正しい傾きであること(平面セオリーを知っているか)

2.重要な重りを見逃さず乗せること(場況情報を取得できているか)

3.必要な重りが正しい方の天秤皿に乗せられていること(情報の質を見抜いているか)

4.重りの重さが正しいこと(情報の価値を見抜いているか)

順番に説明します。

最初の「平面の天秤」自体が正しい傾きであること(平面セオリーを知っているか)

1は場況ではなく平面セオリーの話になりますが、とても重要なことです。

例えば先ほどの愚形5200追っかけリーチの平面的なセオリーを知らず、最初の平面の天秤を追っかけリーチしない側に強く傾けていると、場況を考慮した時の最終的な判断も大きく変わります。

これは場況を判断するための前提部分です。

「平面が分からないと立体も分からない」「基礎がしっかりしていないと応用ができない」というようなイメージです。

まずは平面の天秤をある程度しっかりと手に入れられるようにしましょう。

思考というよりも知識の部分です。

その上で2を考えてみます。

重要な重りを見逃さず乗せること(場況情報を取得できているか)

重要な重りを見逃さずに乗せるというのは場況情報をきちんと取得できているかどうかということです。

自分の待ちが切られていて少なくなっているとか、今何局で点数状況はどうなっているというような情報は気づいていないとどうしようもありません。

これがないと常に平面の天秤のままで判断を下すことになります。

細かい部分はともかく、重要な重りになりえる部分は取得していないといけません。

当たり前のことですが、場況に対応するためには場況情報を入手する力が必要です。

ロジックの理解というよりは、実戦で実用できるのか?という部分です。

次に3です。

必要な重りが正しい方の天秤皿に乗せられていること(情報の質を見抜いているか)

2で場況情報を取得できても、その重りの意味が分からず天秤に乗せなかったり、乗せる側を間違えては意味がありません。

例えばソーズに染めている人がいる場でのソーズ待ちは基本的にアガリ率が下がります。

なので例えば自分がテンパイで亜リャンメンの待ち選択などで「待ちを三索:麻雀王国六索:麻雀王国にする」vs「待ちを三筒:麻雀王国六筒:麻雀王国にする」という天秤があった際には「ソーズで染めている人がいる」という情報は「待ちを三筒:麻雀王国六筒:麻雀王国にする」側に乗る重りです。

その結果判断が変わるのかという点は一旦置いて、染めている人に気づいているにも関わらず(つまり2はクリアしているのに)特に深く考えずどちら側にも重りを乗せないというのはよくないです。

またそれ以上に(特に、染めている人がテンパイしていなさそうな序盤に)「染めている人に三索:麻雀王国六索:麻雀王国で放銃したくない」という思考で「ソーズで染めている人がいる」重りを「待ちを三索:麻雀王国六索:麻雀王国にする」側に乗せてしまうと大変です。

せっかく取得した重りを本来置くべき側と逆側に乗せてしまっては正しい判断は全く期待できません。

最後に4です。ここが場況判断において特に難しく、上級者同士でも意見が分かれる一番の理由だと思います。

重りの重さが正しいこと(情報の価値を見抜いているか)

1,2,3でやってきたのは正しい平面の天秤を入手して、そこに乗せるべき重りも入手して正しい側にその重りを乗せるということです。

最後に忘れてはいけないのがその重りの重さを正確に計ることです。

例えば「役牌をポンしている人がいる」という情報と「ドラの役牌をポンしている人がいる」という情報はあまりに重みが違います。この重みの違いを認識することが大切です。

また、重りは他の重りと作用しあって重さが変わることがあります。

先ほどの愚形2600追っかけリーチの例でも言及しましたが、「リーチ棒を出すことで着順Down」の重みは「東二局である」という重りが存在するときと「オーラスである」という重りが存在するときで重さが違います。

東一局とオーラスでは瞬間の着順Downの価値が違いすぎるからです。

他にも「リーチ者がラス目」という情報は基本的には追っかけリーチしない側に乗る重りです。しかし、「リーチ者がラス目」「自分がリーチすればラス目をトバしてトップ終了できる」「ラス目に満貫放銃しても自分は二着」というような情報が揃えば話は変わってきます。

一撃でトップ終了のチャンスがあり、失敗してもローリスクであれば大胆に攻めるという選択も浮かんできます。

この重りの価値を正しく認識する、という部分はとても難しい部分です。微妙な重り同士の比較は困難ですし、上級者でも意見が割れるということは大いにあり得ます。

しかもこれらの重りは場況が変われば常に価値も変わっていきます。ルールによっても大きく変わります。

そして平面セオリーのように簡単に知識として答えをはじき出せるものでもありません。

最終的には基本的なロジックからの推測、経験則との照合、強者をお手本にしていく等をしていくことになるかと思います。

長い例え話でしたが、一つ大切なのはこの天秤、実は天秤皿が二つとは限りません。

今回は追っかけリーチするorしないのみで考えたので二択ですが、実際には追っかけリーチするorダマで押すorベタオリで撤退する、というケースもありますよね。

あるいは場況に合わせて手を作るのであればAを切るorBを切るorCを切る、というような構図になります。

また「平面の天秤」は勿論必ず存在するわけではありませんし、必ずどちらに傾いている訳でもありません。

平面であってもセオリーが確立できてないケースも多数存在しますし、微差すぎて拮抗している天秤の場合もあるでしょう。実際にはまず平面の天秤の傾きがよく分からないという場面も多いはずです。

それでも一つの考え方として参考になれば幸いです。

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