心理学する麻雀

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タイトルは「科学する麻雀」から。

麻雀が強くなるには、確率や統計についての知識や、状況を適切に判断し続ける冷静さが必要になります。

それは「デジタル」という言葉からイメージされるようなある種機械的な判断力です。

しかし、人間は常にコンピュータのように機械的に判断できるわけではありません。

人間はコンピュータと違い感情的になります。常に高度な計算ができるわけでもありません。

さらに人間は誤った思い込みをしてしまったり、非合理的なものを合理的と勘違いするような思考の癖があります。

例えば麻雀において

・リーチに対して本当は押すべきなのに、「押したら放銃してしまうかもしれないからやめておこう」というデメリットしか考えない合理的ではない考えになる。

・過去に似たような場面で放銃した記憶が呼び起こされ、押すべき牌を押し切れない。

・その日はずっとめくりあいに負けているので「次こそ勝てるはずだ」と思い込む。

・同程度に勝ったり負けたりしているのに負けの喪失感だけが強い。

・逆にトータルでは明らかに負け越しているのに自分は勝ち組だと思い込む。

などなど、合理的ではない考え・感覚というのは麻雀においてよく起こることです。

今回はそういった人間の認知判断の癖や、不合理な考え方になってしまうメカニズムを説明する心理学の知識を紹介しようと思います。特に麻雀や麻雀上達に関係のありそうなものをまとめてみました。

※分かりやすくまとめるために説明を簡略化している部分もあります。

目次

後知恵バイアス

後知恵バイアスとは物事が起きた際にそれが予測可能だったと考える傾向のことです。

何かが起きると実際にそれを予測していたわけではなくても「ほら、俺はそうなると思ってたんだよ」と言う人、結構いますよね。

簡単に言うと人間はこういう「ほら、俺はそうなると思ってたんだよ」という思考になりやすい性質を持っているということです。

麻雀においては例えばダマテンに放銃した時に「やっぱり放銃だったか」と自分で放銃を予測できたかのような錯覚を起こすかもしれません。

しかし、もしも本当に放銃すると予測できたのであれば切らなければ良い話です。

現実的にそんなことはほぼあり得ず、多少の危険を犯してでも押すべき場面で放銃したのならば問題ないですし、ノーケアのダマテンに放銃というのは仕方ない場面が多数です。

後知恵バイアスが働くとどうしても結果論で語ってしまいます。

その結果にたどり着くプロセスの思考を放棄して結果しか評価しなくなってしまうと上達が望めなくなってしまいます。気をつけましょう。

ハロー効果

ハロー効果(後光効果、光背効果)とはある対象への評価・印象が他の顕著な特徴に引きずられて歪められてしまう現象のことです。

例えば外見が良い人を見て性格も良いのではないかと評価したり、ある仕事が得意な人はすべてにおいて優秀だと判断したりしてしまう、というような現象です。

ハロー効果はネガティブにも働きます。つまり外見の悪さを見て性格も悪いのではないかと評価したり、一部分の悪さを見て全てが悪いと感じたりします。

麻雀においてもこのハロー効果が起きる場面があります。

例えば、牌捌きの綺麗な人を見て麻雀の実力もあると感じたり、逆に牌捌きがおぼつかない人を見て実力がないと評価したりしてしまいます。

あるいはある大会で優勝した人に対して「絶対にこの人は麻雀が強い」と評価したり、普段の言動が頼りない人を「この人は麻雀が弱い」と評価したり。

更に麻雀が強い人は性格も良い、麻雀が弱い人は仕事もできない、のように麻雀を起点に他の角度からの評価も決めつけてしまいます。

麻雀の実力の評価というのは大変難しいものですし、必要以上に他者を評価する必要はありません。たまに麻雀の強さで人格まで否定するような人もいますが、もってのほかです。

ですが特に初心者において「誰から教えてもらうか」というのはかなり重要なことです(参照記事)。そのためには本当に強い人を見抜く必要があります。

勿論盲信は危険ですが、より強くなるためには上級者からの教えや議論が重要になります。この上級者を見抜くという過程において、ハロー効果に惑わされないよう気をつけると良いでしょう。

利用可能性ヒューリスティック

ヒューリスティックとは経験に基づいた簡便な判断処理のことです。

熟考の逆の概念に近く、精度は保証できないが速く解にたどり着く思考のショートカットです。経験則による直観のようなものです。

人間は無意識的にこのヒューリスティックを用いています。ヒューリスティックはスピードは速いですがしばしば誤った結論にたどり着きます。

その中でも利用可能性ヒューリスティックとは、人間は思い出しやすい情報を元にした判断・推測をしやすい、という傾向のことです。

これだけだと分かりにくいと思うので例題を一つ。

問題です。英単語において

1.rから始まる単語

2.三文字目がrである単語

のどちらが多いと思いますか?

答えは三文字目がrである単語です。

これ、多くの人がrから始まる単語の方が多いと感じると思います。

なぜこのような錯覚を犯すかというと、rが三文字目である単語(service,parent,cure…)よりも、rから始まる単語(real,read,risk…)の方が簡単に思い出せるからです。

このように人間には自分が思い出しやすいものを優先的に判断してしまうという傾向が見られます。

麻雀においても、自分が思い出しやすい事柄だけを使って判断しがちです。

押し引きにおいて、リーチに放銃して痛い目を見た記憶の方が強く、押し切ってアガるというメリットを評価せずすぐオリてしまう。

配牌ですぐに三色を想起し、実際にはかなり成就しにくい三色を無理に狙ってしまう。

などなど、想起が簡単な事だけを理由に判断してしまうことがあります。

代表性ヒューリスティック

代表性ヒューリスティックとは、典型例に近い確率を過大評価しやすい傾向のことです。

例えばコイントスを5回するとして、

1.表表裏表裏

2.表表表表表

どちらの結果が出やすいでしょうか?

これは実はAとBは全く同じ確率で起こり得ます(0.5の5乗=約3%)。

しかし2の全て表よりも1のように表と裏がバラついて出る方が50%ずつ起こり得るという典型例に近く感じられるので、より起こりやすそうだと錯覚してしまいます。

ギャンブラーの誤謬

代表性ヒューリスティックから話を派生させます。

仮にコイントスのゲームで表表表表表と5回連続表が出ていたとして、次に表と裏のどちらが出やすいでしょうか?

「次こそは裏が出るはず」あるいは「次もこのままの勢いで表が出るはず」と主観的な理由で確率を誤認することをギャンブラーの誤謬といいます。

コイントスであれば(そのコインや投げ方に細工がない限りは)表も裏も常に50%の確率で出現します。

ギャンブラーの誤謬が起きると、その客観的な確率よりも、主観的な理由をもとに判断してしまいます。

麻雀においては、例えばその日になんどもめくり合いに負けていて、次こそは勝てるはずだと感じて割に合わない勝負をしてしまったりしてしまいます。

これだけ負けているのだからそろそろ勝てるはずとか、逆に競り勝っているから今のうちにやめておこうという一種の「流れ」のような考えの原因になりやすく、注意が必要です。

感情ヒューリスティック

感情ヒューリスティックはその名の通り、感情で判断してしまう傾向のことです。

麻雀では、本来ならしっかり考えてオリるべきなのにも関わらず、押した方が感情的に快なのでゼンツしてしまうなどがあります。

自分の感情が快か不快か、というのは楽しむためには関係ありますが、勝つための判断基準としては全く関係のないものですので、感情と判断を切り離して考えられるのが理想です。

プロスペクト理論

プロスペクト理論の解説の前に、以下の二つの質問について考えて見てください(wikipedia:プロスペクト理論より)。

・質問A 以下の選択肢のうち、どちらかを選んでください。

1.無条件で100万円が手に入る。

2.コイントスで表が出れば200万円手に入るが、裏なら一円も手に入らない。

・質問B あなたには200万円の負債があります。以下の選択肢のうち、どちらかを選んでください。

1.無条件で負債が100万円減額され、負債総額が100万円になる。

2.コイントスで表が出れば負債が帳消しになるが、裏ならそのまま。

この質問AとBは、それぞれ1,2の選択肢のどちらを選んでも期待値は同じです(質問Aは+100万円,Bは-100万円)。

違いはリスクをとってリターンを得るかどうかです。両質問とも1が堅実な選択で2がハイリスクハイリターンな選択と言えます。

よって、質問Aで1と答えた堅実タイプの人は質問Bでも1を、質問Aで2と答えたリターン追求タイプの人は質問Bでも2と答えるのが普通です。

しかしこの質問、ほとんどの人が質問Aでは1を選び、質問Bでは2を選ぶことが実証されています。

つまり、期待値的に同程度な選択でも、それが利益を確保するものなのか、損失を回避するものなのかで選択の傾向が変わるということです。

この質問の実験の結果から分かることは、人間は利益のある場合はその利益を取り損なうリスクを回避し、損失がある場合にはギャンブルになってでも損失を回避しようとする傾向があるということです(損失回避性)。

基本的には人間は損失に敏感だと考えられます。

プロスペクト理論はこの質問の実験がもとになって発展しました。

さて、プロスペクト理論のエッセンスは以下の一つのグラフに全て集約されます。

このグラフは中心(参照点)を起点に、右側が実際に得した量で、左側が損した量です。

例えば一万円を貰った、失った、とお金で考えても良いですし、麻雀であれば点棒だったり天鳳であればptだったりします(以降「損得」と表記)。

そして上側が主観的な得の感覚と損の感覚です。一万円貰ったことによる嬉しさや、天鳳で100pt失ったときの悲しさです。こちらはあくまで感情なので主観的なものです(以降「損得感情」と表記)。

このグラフから読み取れるこの理論の重要点は以下の3つです。

1.人間が感じる損得感情の大きさは現時点からどのくらいの損得かによって決まる相対的なものである(参照点の存在)

2.損であれ得であれ、参照点から離れれば離れるほど損得感情の傾きは小さくなっていく

3.同程度の損得では、損の感情の方が大きい

順に詳しく説明していきます。

損得感情の大きさは「現時点から」どのくらいの損得かという相対的なものである

基本的に人間の損得感情は現時点から損したか、得したか、という基準で揺れ動きます。

この基準となる「現時点」のことを「参照点」と呼びます。

そしてこれが重要になりますがが、参照点は主観によって決定されます。

例えばある日天鳳で1000ptあったところから1300ptに増えたとします。

勿論これは得なので得した感情になりますね。

ですが、次の日になって1300ptから1150ptまで減らしてしまうと多くの人は損したと感じるはずです。

これは参照点が1000ptから1300ptに移り変わっているからです。

あくまで1000ptの時点を参照点として考えるのであれば1150ptでも増えているのでお得感を感じるはずですが、多くの場合1日経てば参照点が更新され、その日の開始ptである1300ptから得したか損したかで考えます。

なので、1150ptになった時点で損したと感じるはずです。

このように、損得感情は参照点をもとに決まっていきます。

損であれ得であれ、参照点から離れれば離れるほど損得感情の傾きは小さくなっていく

例えば1万円得するのと2万円得するのではそこそこお得感が違いますが、100万円得するのと101万円得するのとではそこまでお得感に違いはないでしょう。

これは損であっても同様です。感覚的にも分かりやすいと思います。

グラフにおいて、中心から左右に離れるほど傾きが緩やかになっていることからもわかると思います。

同程度の損得でも、損の感情の方が大きい

最後に重要な点が人間は同程度の損得であっても損した感情の方が大きく感じるということです。

グラフにおいて、右側(得)の上昇の傾きよりも左側(損)の傾きの方が急であることからも分かります。

1万円を突然貰えた嬉しさよりも1万円を突然失った悲しさの方が大きいということですね。

以上がプロスペクト理論の特徴となります。

プロスペクト理論と麻雀

さてここからはプロスペクト理論を応用して麻雀での心理について考えていきます。

プロスペクト理論から分かる麻雀での注意点は、

・損得感情を基準に判断しないこと

・参照点をうまく設定すること

の二つです。

一つ目について。

例えば仮に、50%の確率で12000点加点でき、50%の確率で8000点失点する押し引きがあったとしましょう(数値は適当)。

この選択は損得の期待値で考えればプラスなので押すべきです。あくまで損得の期待値で考えれば。

しかし、ここで損得感情の期待値で考えてしまうと話が変わります。

なぜなら、損得感情は実際の損得が同程度であっても損の感情の方が大きいからです。

12000点加点できる嬉しさと8000点失点する悲しさでは後者の方が大きいということもあり得てしまいます。

このように損得感情で判断しようとすると、損得で判断したときとズレが生じる可能性があります。

二つ目について。

例えば、休日に天鳳を一日中やっていたとしましょう。その日の初めは1000ptあったのに、夜には700ptまで減ってしまった。麻雀が好きな人にとってはよくある光景です。

その際に、「なんとしても今日中には1000ptまでに戻したい」という考え方になってしまうと、その後のプレイでは無理に取り返そうとして必要以上にリスキーな選択をしてしまいます。

これは、700ptになった時点でも参照点が1000ptのままになっているから起こる考え方です。

700ptに減った時点で参照点を更新して、現時点の700ptから効率的にポイントを増やすにはどうすればいいかという点のみ考えることが重要です。

「負けが込んできて焦って大きな手ばかり狙ってしまう」というようないわゆるメンタルが崩れるという状態はこの参照点の更新をしていないから起きることが多いです(これは最初の質問で負債があるとリスキーになる実験からも分かります)。

常に現時点を参照点にして、現時点から結果を良くするための最善を尽くすことが大切です。

アンダーマイニング効果

麻雀のゲーム性とは関係ないのですが、最後にこれを紹介して終わります。

アンダーマイニング効果とは、内的動機付けによって行われている行為に対して報酬などの外的動機付けを行うことでモチベーションが低下する現象のことです。

専門的な言葉がでてきました。詳しく見ていきましょう。

まず、内的動機付けというのは、「自分がやりたいからやる」「自分が楽しいからやる」というような自分の内から湧き出る素直なやる気のことです。

一方で外的動機付けとは、「報酬がもらえるからやる」というように外部からの条件によって引き起こされるやる気のことです。

ちなみに心理学における「報酬」は金銭・物品に限りません。「褒めてもらえる」とか「認められる」というように精神的なものも含まれます。

心理学では動機付けの強さは内的動機付け>外的動機付けだということが分かっています。

例えば、「自分が数学が好きだから勉強する」というような子供と「数学を勉強することで親から褒められるから勉強する」子供とでは、やる気の強さは前者の方が強いということです。

ここで、「自分が数学が好きだから勉強する」という内的動機付けを持ち行動している子供に、「数学のテストで高得点が取れたらごほうびをあげる」というように外的動機付けを行うと、「好きだからやっている」という内的動機付けが「ごほうびをもらうためにやる」という外的動機付けにすり替わってしまいます。

テストが終わるまでは報酬に期待して勉強しますが、テストが終われば外的動機付けがなくなりもう勉強する意味がないと感じてしまいます。

本来なら好きでやっていたのだからテストなど関係ないはずなのに。

このように、強い内的動機付けが弱い外的動機付けに上書きされてしまう現象がアンダーマイニング効果です。

さて麻雀は娯楽の一つですから、「自分がやってて楽しいからやる」という内的動機付けでやっている人がほとんどでしょう。

「おもしろいから」「強くなりたいから」「深く知りたいから」というような動機で取り組んでいる限り、強い熱量を持ち続けられるはずです。

負けて悔しい、ふがいないとネガティブに思うときもあるかもしれませんが、それでも楽しくてまたやろう、となるはずです。

ただこれが、「雀荘メンバーだから仕事として給料(報酬)をもらうため」とか、「誰かに強さを認めてもらうため」とか外的動機付けに移り変わっていくと、麻雀そのものの楽しみややる気が弱くなっていく可能性があります。

もちろんこういった動機付けが悪い、と言っているわけではありません。

ただ最近少し麻雀がつまらなく感じていやだな、という方は自分はどうして麻雀をやっているのか、動機付けを振り返ってみると良いかもしれません。

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