初心者と上級者の間には大きなスピード差があると過去の記事で書きましたが、その際に鳴きの大切さについて少し触れました。今回はこの鳴きについて少し掘り下げてみます。
鳴きによる加速とは
テンパイスピードを考える際に重要になるのが手牌の受け入れ枚数です。手牌の受け入れ枚数が多くなることとシャンテン数が下がることは多くの場合でスピードが速くなっているのだと考えてよいでしょう。シャンテン数が下がるということはテンパイやアガリまでのステップを着々と進んでいるということです。そして、受け入れ枚数が増えるということはシャンテン数を下げるチャンスを増やしているということです。面前限定の場合であれば、この受け入れ枚数とはツモのことを指します。ツモ牌が有効牌になりうる可能性を上げるために、有効牌の受け入れを増やすことが面前でできる牌効率の限度です。
ここに鳴きが加わると話は大幅に変わります。面前限定ではなく鳴きも可能な手牌であれば、受け入れの牌はチーやポンでも手に入れることができます。例えば、以下の二つの手牌での受け入れを見てみましょう。
A:
B:
上の牌姿は両方ともイーシャンテンです。Aの牌姿は完全イーシャンテンと呼ばれる、受け入れが多く必ず両面待ちになる理想のイーシャンテンです。受け入れ枚数は6種20枚です。
Bの牌姿は完全イーシャンテンよりも劣る両面×2のイーシャンテンです。受け入れ枚数は4種16枚とAの牌姿よりも少ないです。しかしこの手は鳴いてもあがれる手なので、はチーすることができます。それを考慮すると実際のテンパイスピードはもっと上がります。上家が完全にランダムに切るのであれば、(面前かを問わずテンパイ条件だけを考えれば)ツモが二倍になっているのと同じですのでスピードは実質倍とも言えますが、そうではないので1.5倍程度に見積もって考えてみます。そうすると実質受け入れは24枚とAの牌姿よりもテンパイチャンスが増えていることが分かります。勿論上家が有効牌を切る確率は巡目や場況や牌の種類によって変わるのでこれはかなり大雑把な計算ですが、面前でしか手を進めらない時よりも鳴きを使えばスピードは大幅に加速されるということを覚えておきましょう。
ちなみに、チーは上家からしかできないので今回1.5倍としましたが、ポンは相手全員からできるので2.5倍程度に見積もることができます。勿論ポン材はトイツですので元から2枚しか受け入れがないですが、それでも3人から鳴けるというのは大きいです。
そもそも鳴くという発想が持てるか
ここまでは初心者でも分かりやすいかと思います。鳴いたら早くあがれるということ自体は麻雀をする上では常識と言えます。愚形を鳴いてかわし手をあがったり、ドラの役牌をポンすることなどは初心者でもわかりやすい戦術だと思います。
問題は以下のような牌姿
このような牌姿ではまず鳴くという発想があるかどうかが根本的な問題になります。この「鳴く発想が持てるか」が鳴きの技術の習得の上で一つの壁になります。
この牌姿にはポン、あるいは
チーなどの選択肢が隠されています。これらを鳴くことでシャンテン数が変わらなくとも鳴きが効くようになり実質受け入れはかなり増えています。スピードは上がっていると言えます。
実際に鳴いた方がいいかどうかは場況によって変わりますが、ここでは鳴くという発想があるかどうか、この手牌で鳴きを想定しているかどうかが問題です。アガリトップにも関わらずのことしか考えていなくて
や
をスルーしてしまうのはいけません。またこの鳴きについて想定していないと
のような手から
を切ってしまいます。
繰り返しになりますが、鳴きの想定までした上でを持っていたほうが良いと判断して
を切るのなら良いのです。しかしただ無意識的に東を切るのは良くないです。鳴いた方が良いか、鳴かない方がいいのか、という議論の前にはまずそこが鳴けるのではないかという想定ができてないといけません。
ではこのような鳴きに気付くためにはどうすれば良いでしょう。ある場面で鳴いた方がいいのか鳴かない方がいいのかという比較は自分だけでもできますが、そもそも鳴けるのではないか、という発想自体は自力でたどり着くのは難しいです。おそらく他の上級者が鳴いているのを見てはっと気付くというケースが多いでしょう。特に天鳳の上級者は一見トリッキーに見える鳴きをよくします。上級者はそれなりの考えを持って鳴いているはずです。よく初心者が上級者の鳴きをみて全く理解できずふざけているのかとすら思うことがありますが、ふざけてはいません。上級者がやっているのなら必ずメリットが隠されているはずです。まずは色々な上級者を観戦することで「えっ」と思うような鳴きに出会い、そこでその鳴きを検討すると良いです。
特にこのようなシャンテン数の変わらない鳴きは鳴く部分があるということに気づけないことが多いです。あとはテンパイまで何もすることがないとは考えず、どんな時も「鳴ける牌はないか?」と考えることが大切です。
クイタン病は通る道
前回の記事では量産型デジタルというデジタルの盲信に対しての揶揄について触れました。それと同じように、現代麻雀ではスピードが重視され鳴き(特にクイタン)が重要であるという戦術を盲信するあまり、本来鳴くべきではない場面でも鳴いてしまう人も一定数増えました。彼らのことを揶揄する言葉で「クイタン病」という言葉があります。勿論クイタン病自体は良いことではありません。しかし、クイタンや鳴きについてよく考えるというその姿勢自体は現代麻雀において重要であることは間違いないです。その結果鳴きすぎてしまうのであれば少しずつ再修正すれば良い話です。全く鳴きを考慮しないままの人の方が進歩がありません。量産型デジタルの記事でも書いたように、あくまでも経由地点としてのクイタン病は思考錯誤した結果とも言えるので、大きな問題ではなくむしろ現代麻雀にアジャストしようとする良い姿勢であるとすら思います。ぜひ「ここは鳴けないか?」ということをたくさん考えてみてください。