今回は戦術本についての記事です。
12月15日発売のZERO氏著の「むこうぶち傀に学ぶ!麻雀強者の0秒思考」を紹介します。
普段戦術本を買うときは現物をAmazonで予約注文するのですが、今回は発売日からAmazon Kindle Unlimitedで読むことができたので現物が届く前に読み終わりました。電子書籍の力は偉大ですね。
ZERO氏といえば天鳳十段経験多数、タクミルでの麻雀家庭教師活動(→参考記事「タクミルでzeRoさんの講義を受講してきた話」)、動画配信「zeRoから始める麻雀生活」、Mリーグでの観戦記などアマチュアでありながら麻雀界で多く活躍している鉄板強者です。
また戦術書出版経験もあり、過去の出版に「ゼロ秒思考の麻雀」があります。「ゼロ秒で判断できるように」と思考のシステム化を意識した内容の良書です。
今回も前回同様「0秒思考」をタイトルにした戦術書です。
前作と少し違う点として麻雀漫画「むこうぶち」とコラボしていること。元々は近代麻雀のコラムであること。前作の会話形式ではなくコラムとして1テーマずつ区切っていく方式になっていることなどが挙げられます。
全体は3章立てになっており第1章中級編、第2章上級編、第3章特殊技術編という構成。
いきなり1章から中級編となっているように比較的中・上級者向けの内容が多いです。
また時折挟まれるコラム「アウトローコラム」が前回より増量されています。
この本に限らず、戦術書に挟まれるコラムは面白いものばかりで良いですね。
目次
引き出しを持つ
本書の初めに、『(むこうぶちの)傀に限らず強者は「確固たる基準」と「多くの引き出し」を持っているものだ。』とあります。
まさにその通りだと思います。
リーチ、押し引き、鳴きなど決断を強いられる局面では「確固たる基準」に基づいて(時にはその基準をさらに場況で更新し)精密に判断し、珍しい局面や複雑な局面でも「多くの引き出し」を開けて有効な選択をすることが強者の条件といえます。
「こういう場面はこうした方が良い」というセオリーも引き出しの一種です。
例えば「カンチャンドラ1なら即リーした方が良い」、「親リーに2シャンテンならオリた方が良い」というのは一種の大きな引き出しです。
これら大きな引き出しを持っていないと初心者を脱することができません。
ただし、これらの引き出しに頼る力には限界があります。
場況が複雑に絡んだ場面の判断などは「こういう場面はこうした方が良い」という引き出しが存在しないことの方が多いので、「自分の力で考える」しかない状況になります。
この「自分の力で考える」力の差が中級者と上級者を分けるのかもしません。
しかし、です。
少し違う考え方をすると、強者は「こういう場面はこうした方が良い」という引き出しの粒度が細かく、沢山持っているのではないかとも考えられます。
つまり、「カンチャンドラ1なら即リーした方が良い」という大きい引き出しだけではなく、例えば「カンチャンドラ1はトップ目以外なら即リーした方が良い」という粒度での引き出しを持っているのです。
そしてその引き出しを適切な場面で探しあてる。こういった思考の精度の積み重ねが強者になるために必要なのではないかと考えられます。
本書ではこういった強者の持つ小さい引き出しを多数紹介しています。
特殊な状況、珍しい状況(中には流しマンガンや国士無双についての戦術も)であっても対応できるほどの引き出しを学ぶためにはうってつけの良書です。
引き出しに名前をつける
では細かい粒度で多くの引き出しを持つためにどうすれば良いのか。
そのために有効なのが「引き出しに名前をつける」行為です。
前作「ゼロ秒思考の麻雀」においても「トイトイダッシュ」、「ケーテンゾーン」、「アルティメットピンフのみダマ」などユニークな名前の戦術が紹介されました。
本著においても「アンコクラッシュ」、「タンヤオスキー」、「シカマン」など、新たにユニークな名前の戦術が紹介されています。
これらは強者にとっては恐らく引き出しの1つとして持っている戦術です。
例えば「タンヤオスキー」にて紹介される牌姿を見て、を切るとかを切るという発想は強者は自然と思いつくはずです。
それらの戦術の特徴、つまり「タンヤオ確定にできる場面では多少牌効率に逆らってでも19字牌ターツを落とす」を抽出し、新たに名付けることで引き出しの1つとして明確にすることができます。
それまでなんとなくあやふやで抽象的だったものに名前をつけることで理解しやすい戦術として汎用的に使えるようになります。
毎回似たような牌姿で、字牌を落とすのか他の弱そうなターツを落とすのか?と考えるよりも、これってタンヤオスキーで良いのかな?と考えた方が分かりやすいです。
特にタンヤオスキー練習問題の③のような牌姿は牌効率だけでは答えを出すのが難しく、それらの戦術の引き出しを持っているかどうかが問われるような牌姿です。
観察と思考
本書では「リーチにど無筋を通す新法則」として、リーチに対してそれまでの捨て牌から無筋のでも押せると読める、と紹介されている部分があります。
具体的な内容は本書に書いてある部分なので省きますが、捨て牌と場の牌の組み合わせから両面の待ちの可能性を消去するという非常に高度な読みをロジカルに説明しています。
鳴いた手牌の読みはともかく、リーチの待ちなど読めない、というのが少し前までは通説でした。
もちろん今回紹介されている技術もリーチの待ちを読んだのではなく、危なく見えても実はかなり安全度が高い無筋である、と判明させているにすぎません。
ですが、これは「リーチの待ちなんて読めないから考えるだけ無駄」だと考えていては絶対にたどり着けない思考です。
ZERO氏はトイレに行っている間に思い出していてが通ることにハッと気づいたと書いています。
これは観察と深い論理的思考のなせる技です。
特に読みに関してはロジックを積み上げて他の可能性を消去していくという考え方が必要になります。
そのためには常に「こういうパターンもある」「このパターンにはなりにくい」ということを考えておかなければなりません。
恐らく何度も牌譜検討して自分の頭にパターンを蓄積し、こういうときはこうだった→これって偶然ではなく一般化できるのではないか?というように思考を発展させていった結果の賜物だと思います。
麻雀の研究は進んではいますが、あらゆる場面の答えがわかっているわけではありません。まだ普遍化されていない戦術やセオリーがあるはずです。
大きな引き出しを作り、小さな引き出しも作ったあとは、自分なりにオリジナルの引き出しを作る作業に入らなければならない日が来ます。
大きな引き出しを作る戦術書はすでに沢山あります。本書は特に強者が持っている小さな細かい引き出しを作るヒントとしてすばらしい戦術書ではないかと思います。